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グループ研究レポートV 化粧グループ
メンズ・レディースから自分らしさへ
坂本玲奈、海老名梢、近藤美和子、山口智紗子
はじめに

 高校3年生は大人とは言い切れないが、もはや子供でもない。それは大人になるための準備期間であり、自分自身の性と同時に異性を意識し始める時期でもある。そのため男女を問わず身だしなみに気をつかい、髪をセットし眉を整え始めるが、特に女性は化粧をする人が増えてくる。そこで私たちが興味を持ち日常生活に欠かせなくなる化粧品に注目し、化粧の起源などを調べることで、性による区別が社会でどのようにされているのかを探ってみたいと思った。

  ただし化粧品の種類は多いので、男女問わず使われていながらメンズ、レディース、ユニセックスと性による分類がされている香水に注目し、その分類の理由を明らかにしていきたい。


1 「化粧」と「人間」

 「化粧」と聞くと、「女性だけがするもの」と思われがちだが、ここでは口紅やマスカラ、ファンデーションを塗るなどの「メイク」だけではなく、髪や眉など顔まわりの身だしなみを整えることも化粧という枠の中に入れたい。広辞苑を引くと、「化粧」とは「紅・白粉(おしろい)などをつけて顔をよそおい飾ること。美しく見えるよう、表面を磨いたり飾ったりすること。おつくり。けそう。」とあり、人は「美」について関心を持ち、自分を磨き上げようと化粧するということのようである。しかし人が化粧をする理由は他にもいろいろ考えられる。

 その理由の一つには、人目を気にするということがあげられる。入試や就職の面接に代表されるように、人は初対面の時、第一印象が良くなるように髪や服装や化粧に気をつかう。性格などは互いに接していく中でしか分からず、初めはその人を視覚でしかとらえることができないので、自分の「見た目」を大切にするのだ。人が見た目を気にしたりすることはごく自然なことなのだ。

 もう一つの理由は自分の心を豊かにするためである。本来、化粧はしなくてもいいものであり、人間の生死にかかわる問題ではない。しかし化粧することにより、理想の自分を創り出し、自分の心を明るくすることもできる。朝、肌がいつもより調子がよかったり、化粧のりがよかったりすることなどは、その日一日をいい日にしてくれるといっても大袈裟ではない。人間はある目標に達しても、さらに上を目指して欲望を追求する生き物である。自分の満足や心の状態を豊かにする手段の一つとして化粧をするのではないか。また、多くの種類の化粧品の中から自分にあっているものを探すこと自体、楽しみの一つである。

  石田かおり著『化粧せずには、生きられない人間の歴史』には「現在までに化粧の歴史が途切れたことは一度もなく、地球上どこを見ても化粧文化を持たない共同体はない」とある。人類は化粧とともに歴史を歩み進化してきたのであり、今後も化粧は人間にとって必要不可欠なものとなるだろう。男女を問わず他人から良く見られたい、自分の心を豊かにしたいという欲求があり、それが化粧の根本となっているのであれば、「美」ではなく「理想的な自分自身を創り出すこと」が化粧の永遠のテーマだと言えるかもしれない。


2 動物のコミュニケーション

  化粧品の多くには香料が含まれており、今回注目した香水の最も重要な要素は香である。この香り=においにはどのような意味があるのだろうか。私たちはそれが人と人とが関係を結ぶコミュニケーションにあるのではないかと考えた。それを確かめるために、まず動物のコミュニケーションとにおいの関係についてみていきたい。

  動物は人間と違い、明らかな言語コミュニケーションがとれないため、様々な方法をとっている。イルカのように超音波で仲間と交信するものもあれば体の色を変えるものもある。よく知られているように、イヌは自分のにおいをつけてテリトリーを知らせるなど様々な情報をやり取りしているようである。ここでは、においを使った三つのコミュニケーションを紹介する。

  一つ目は嗅覚が鋭いイヌ科の動物の情報交換。『動物大百科16 動物の行動』(P .J .B .スレイター編・日高敏隆監修 平凡社刊)によると、「イヌやキツネなどのイヌ科の動物は、なわばりを印づけるために尿を用いる。それに含まれている化学物質は、ゆっくりと分散し拡散するから、そのにおいはどれくらい前につけられたもので、どの個体がつけたものかも識別できる」とある。また、『イヌと上手に話ができる本』(利岡裕子著 三笠書房刊)では、イヌがマーキングするのは自己紹介のためだとされている。散歩の時、イヌは常にクンクンと地面を嗅いでおり、気になるイヌが通ったあとなどは入念に嗅いでいる。自分が気になる所には何回にも分けて何ヵ所にもオシッコをかける。またオスが足を上げておしっこをするのは、自分を大きく見せるためだといわれており、それは上の方におしっこができるほど、大きなイヌだということを示すからだという。

 二つ目はハムスターの求愛行動。ハムスターのメスは交尾の時期になるとにおいを出してオスを誘うそうだが、これもコミュニケーションの一つと言えるだろう。

  三つ目はアリの集団行動。餌を見つけたアリは「道しるべフェロモン」というにおいを付けながら巣へ帰り、仲間はそのにおいをたどって餌まで行く。小学校の国語の教科書には、アリがたどる道を指でキュッキュッとこすると次のアリが道を失って迷うと紹介されていたので、実験してみるとその通りになった。

 イヌにしてもアリにしても、人間ならば「ここは自分の陣地だ」とか、「好きだ。愛してる」とか、「こっちにエサがあるからついてこい」とか言葉で伝えていることをにおいで行なっているのである。これらのことからにおいは動物にとって重要なコミュニケーションの手段だと言える。


3 香水の起源

  動物にとって重要なにおいは、人間にとってどのような意味や働きがあるのだろうか。それを香水の起源を調べることで考えてみたい。

  香水は匂いそのものである。だから匂いに関する何か不都合なこと、もしくは、好都合なことがあるために香水が生まれたのではないだろうか。私たちは汗の臭いや体臭を消すために、制汗剤や消臭スプレーなどを運動した後や出かける前などに使用する。いくら毎日風呂に入って体を清潔にしても、完璧に体臭を消すことはできないので、現在のように気軽に風呂に入ることが出来ない頃の人間はかなり臭っていただろう。匂いははっきりと目に見えず無意識に嗅いでいるものだが、微かなにおいでも強く印象に残る。自分と同様に周りの人も臭っていたとしても、風呂に入らなかった時の独特の汗臭さは不快だったろう。不快さは人間関係を悪化させるため、消臭の必要が生まれたのではないか。しかし消臭のために風呂に入るには大量の湯が必要なため、その代用として香水が発明され、体にふりかけて体臭を消していたのではないだろうか。まず体臭消しとして香水は生まれ、その後にオシャレとして使うための多くの香水が作られていったと考えられる。

  また『香りと文明』(奥田治著/講談社)によると、香水の前身である香料の起源は、神に感謝をささげる祭りと儀式に始まったという。力の弱かった古代の人間は神を敬い、危険から身を守ってもらわねばならなかった。そこで香料や香木で普段とは違う雰囲気を作り、神のための儀式をした。食べ物の確保、外敵からの防御、病気の予防と治療などは、神の救いを求めるしかなかった。そんな神の恵みに報いる手段として、神の好きな香りを捧げるために香木や香料を焚き、天に向かって立ち上る煙に願いと感謝の気持ちを託したのである。

 しかし現代の日本では飢餓の心配をする人は少なく、米や野菜を作っていなくとも、仕事で得たお金を払えば食料は手に入る。またペット以外にはクモやアリといった昆虫やカラスなどの鳥ぐらいしか動物と出合うことはなく、襲ってくる獣から身を守る必要もない。怪我や病気になれば病院で医者に診てもらう。宗教ではなく科学に頼って生きている人間が神に祈るために香水をつけることはないだろう。

  前掲書にはテオフラストスの「匂いの研究」の一部として「ミミ薔薇、キュプロス、ユリ香油はさっぱりした感じで男性向き。没薬、メガレイオン、マヨラナ、ナルド、エジプトなどの香油は女性向きだ」と紹介されている。テオフラストスはB.C.371〜288に生きた人なので、その時すでに現在のように男女それぞれに似合う香りが区別されていたということになる。そこに記されている香料がどのような香りか正確には分からないが、女性は男性に対して頼れるような気分を味わうことができ目が冴えるようなさっぱりした香りを求め、男性は女性に対して母親といる時のような気分になれるやさしく落ち着いた甘い香りを求めていたのかもしれない。


4 メンズとレディースの違い

  現代の日本で売られている香水には性による分類がされている。メーカーが区別しているメンズとレディースの違いは何によるのだろうか。

 店頭で目につく香水容器のデザインに注目すると、メンズはシンプルなデザインにあるのに対し、レディースは凝った可愛らしいデザインが多く、容器のデザイン自体に惹かれるものが多いことに気付く。

  香水の色について言えば、メンズは透明のほかには青緑など一般に男性を代表する色が多く、レディースは透明以外ではピンク、赤、水色など一般に女性を代表する色が多い。

  また匂いは、メンズはさわやかな香りや少しからめの香りが多いのに対し、レディースはバニラなどの甘い香りや果実や花などの香りが多い。これらのことから香水におけるメンズとレディースがどのような基準で区別されているのかが分かりそうである。

 そこでこの推測の正しさを検証するために、「THE香水屋」の11月号のチラシ(資料A)に掲載された香水のデザインや色や香りがメンズとレディースではどう違うのか調べることにした。

資料A 「THE香水屋」の11月号のチラシより転載

MEN

LADY

UNISEX

a 容器のデザイン
  デザインが凝っていると思われた容器の占める割合は、メンズでは69個中26個の37.6%であるのに対し、レディースは69個中59個の86%だった。また直線的なデザインの占める割合は、メンズは78.2%だったのに対し、レディースは33.3%だった。「レディース」は凝っていて曲線的であり、「メンズ」はシンプルで直線的だといえる。(グラフ1・2参照)

b 香水の色
  メンズ・レディース共に香水の色の基本は透明だが、女性的な印象を与えるピンクの液の割合は、メンズは1.4%、レディースは23.1%だった。色に関してもメンズとレディースでは大きく異なっているといえる。(グラフ3参照)

c 香り
  メンズでは刺激的で爽快感のある香りであるシプレ系の人気が高く、レディースでは、花の香りを主体にしたフローラル系やオリエンタル系の人気が高い。

  これらから、メンズの直線的な容器のデザインと爽快な香りには力強さや野心的である男性の理想像、レディースの曲線的な容器のデザインと甘い香りにはやさしさや美的である女性の理想像と重ね合わされており、この理想像に合わせてメンズ、レディース、ユニセックスという香水の分類があるのだと考えられる。

グラフ1  デザインが凝っている率
    レディース                                             86%

 

 
    メンズ         37.6%

            

グラフ2  デザインが直線的率
    レディース     33.3%

           

    メンズ                                               86.0%
       
グラフ3  ピンクの液率
    レディース   23.1%
       
    メンズ 1.4%

 

   


5 自分らしく生きる

  これまでの考察で性別ごとの理想像があることが分かってきたが、そのもとになる「男らしさ」「女らしさ」とは何なのだろうか。『1「化粧」と「人間」』でも述べたように、男女に共通していることは人の目を気にし理想の自分を創り出すということだ。しかし現代の男性の「化粧」は髪の毛、化粧水、洗顔料などが中心であるのに対し、女性はそれに加えて口紅やマスカラ、ファンデーションなど顔を美しく飾ることもする。これは、女性が綺麗、美しいなどの美的なものを求められるのに対し、男性には美しくあるより強くたくましく野性的なものが求められているからではないだろうか。それは「女(妻)は家の中に居て外で働く男(夫)の帰りを待ち、男のために身なりをきちんと整え、清潔にし、自分を綺麗に保つ。その一方で男(夫)は外見を気にするよりもよく働き家庭を支える(稼ぐ)」という男女の役割分担と結びついていると考えられる。しかし、そうした男女の役割分担や理想の男性像・女性像は時代によって異なり、常に変化してきた歴史がある。

  私たちは香水でも化粧品でも沢山の種類の中から色々なものを自分の好みに応じて選択している。さらに香水は、同じものであっても付ける人の体温や肌の違いによって微妙に香りが変わる。性別による役割分担が薄れるにつれ、メーカーによってメンズやレディースに分類されていても、自分が気にいったものならば男性がレディース用を女性がメンズ用をつけることにもこだわらなくなりつつあるのだと考えられる。

  これからは化粧品に限らず、誰かに決められた男らしさや女らしさに頼ったり縛られたりするのではなく、自分が好きなもの自分で選び取り、自分の判断で行動する「自分らしさ」を持つことが、今以上に求められるだろう。

主要参考図書
 『THE香水屋2月号』
 『香りと文明』  奥田治/講談社
 『化粧せずには生きられない人間の歴史」 石田かおり/講談社
 『動物大百科16動物の行動』  P.J.B.スレイター編・日高敏高監修/平凡社
 『イヌと上手に話ができる本』  利岡裕子/三笠書房
 『フェロモンの謎 生物のコミュニケーション』  WILLIAM C,AGOSTA
主要参考資料
  http;//www.at-kousui.com/perfume/tyukyu_1.html#2


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