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グループ研究レポートⅡ 漫画グループ
刷り込みを見極める力が必要
木山あずさ、梅田知里、中山佐代、橋本あゆ美
はじめに

  私たちは生物学的な男女の違いとは別に「男らしい」「女らしい」と分けていることがある。その分ける基準となっているものは一体何であろうか。ひょっとしたら自分たちが意識しない間に、何者かによって「男とは~だ」「女とは~だ」という刷り込みが行われているのではないか。私たちは物心付いた頃からずっと身近な存在であった漫画を素材にしてその疑問を解いてみることにした。

  まず分析の対象として注目したのは、漫画の中でもたくさんの漫画が1冊に掲載されている漫画雑誌である。そして数ある漫画雑誌から分析の対象を選ぶにあたって、雑誌を読者の年代とその内容の系統で分けた。この年代分けには、漫画雑誌に掲載されているモデルや読者投稿の欄を参考にした。そして、小学生、小学校高学年~中学生、高校生~一般、中・高校生の四つに分類し、それぞれの代表的な雑誌として『りぼん』『別冊マーガレット』『クッキー』『デザート』の4誌を取り上げた。


1 漫画の理想の眼

  作品を読んでいくうちに気付いたことは、4誌とも恋愛をテーマにした漫画が多いが、それぞれ内容の系統が違うことである。それをまとめたのが表1である。

表1

読者層

雑誌名

系統

内容

小学生

りぼん

魔法

現実離れした内容が多く、王子様のような男の子が出てくるものが多い

小学校高学年
~中学生

別冊
マーガレット

あこがれ・理想系

あこがれの恋愛のものが多い

高校生~一般

クッキー

ありそうでない系

現実にありそうな恋愛のものが多い

中・高校生

デザート

エッチ系

援助交際やDVといった現代社会を取り巻く問題に対しての問題提起のものが多く、セックスシーンが多い

  4誌の中では『りぼん』が一番現実離れした印象を受ける。そうした印象はストーリーや描かれたキャラクター(絵)など様々な要素が組み合わさって生み出されているのだろうが、直感的に一番現実と違うと感じた登場人物の「目の大きさ」に注目して、その特徴を分析することにした。(資料1参照)

資料1  目の大きさの違い

『リボン』11月号 「MAXラブリー!」
右側が時枝愛里

『Cookie』11月号 「雲雀町1丁目の事情」
右側が白雪ちな


 目の大きさは顔の面積のどれくらいを目の面積が占めているかを計算して割り出した。ここで目の大きさを測った作品は表2~5に示してある『りぼん』『別冊マーガレット』『クッキー』『デザート』の4誌から取り上げた各3作品で、合計12作品である。各3作品は、各誌の中で目の大きいもの、中くらいのもの、小さいものを1作品ずつ取り上げ、各誌の平均的な目の大きさを調べられるようにした。また目の大きさを測った登場人物は表2~5に示してある女性主人公で、測ったのは各1コマである。その1コマは怒ったり、泣いたりして目の大きさが小さくなったり、大きくなったりしているものではなく、平常時の目に一番近いものを選んだ。

 計算の結果『りぼん』20.1%、『別冊マーガレット』9.5%、『クッキー』9.3%、『デザート』7.8%、ということが分かった。次に現実の人間の目の大きさも測ってみた。測り方は漫画の時と同じで、測る対象は中学の卒業アルバムの個人写真80人に決めた。その結果、現実の目の大きさは10.1%だということが分かった。この二つの計算結果の比較によって、一番現実から離れていたのは直感通り『りぼん』だということが確認できた。(グラフ1参照)

グラフ1  目の大きさの比較



  以上のことから、漫画は現実と違い、登場人物は現実の人間である私たちの理想の姿が描かれているということが分かった。なぜ漫画の目の大きさや頭身が理想であるかというと、それは現在、女性が目の大きさは大きい方が良いという考えや、足は長い方が良いという考え方を持っていると考えられる。例えば、目を大きく見せるマスカラがある。このマスカラについて資生堂のホームページを参照しつつ例を挙げてみる。

   2003年12月末現在、資生堂のブランドは54個、その中でポイントメーキャップを扱っているのが14個(注1)、そしてその中で商品にマスカラがあるのは13個(dプログラムはマスカラを扱ってない)で、その中でマスカラの説明に“ボリューム”や“目元ぱっちり”という言葉がないものは1個(ナチュラルズ)であった。このことからほとんどのマスカラは目をぱっちりと見せるためのものであり、そのような商品が作られるということは世の女性が目を大きく見せたいと考えているからだろう。

表2  『りぼん』 11月号(集英社)

題名

作者

取り上げた登場人物

PARA☆ダイス

ミキマキ

犀川(さいかわ)ライ

MAXラブリー!

倉橋えりか

時枝愛里(ときえだあいり)

満月をさがして

種村有菜

神山満月(こうやまみづき)

表3  『別冊マーガレット』 11月号(集英社)

題名

作者

取り上げた登場人物

クリームキャラメル

工藤郁弥

新美琴(あらたみこと)

高校デビュー

河原和音

長嶋晴菜

紅色HERO

高梨みつば

住吉のばら

表4  『Cookie』 11月号(集英社)

題名

作者

取り上げた登場人物

キラキラ100%

水沢めぐみ

品川みく

あのコと一緒

藤末さくら

坂下かのり

雲雀町1丁目の事情

遊知やよみ

白雪(しらゆき)ちな

表5  『デザート』 11月号(講談社)

題名

作者

取り上げた登場人物

やさしい子供のつくりかた

丘上あい

花子

ラブ☆バランス1:2

ソラニユホ

傘木(かさぎ)ミホ

籠の鳥-ドメスティック・バイオレンス-

吉野マリ

佐倉美羽(さくらみわ)



2 漫画の理想の体形

  次に目の大きさ以外の特徴や傾向を確かめるため、表2に示した『りぼん』の登場人物3人と現実の人たち10人(クラスメイトに協力して貰った)の頭身を比べてみた。すると『りぼん』の方は「胴:脚」がおよそ「3:4」、それに対して現実の方は「4:3」と比率が逆転していた。(表6参照)

  脚の長さについては『with』の2003年10月号に「人気ブランドの新作ジーンズ脚長&おしゃれ度、徹底比較」という記事を見つけた。ここから漫画と同様に脚長願望が存在する様に見えるが、脚長を望むのが『with』の女性購読者特有の傾向なのかどうかを確かめるため、ジーンズを製作しているいくつかの会社のHPに『脚長』を売り文句にしている商品があるのかを調べた。調査対象は日本ジーンズメーカー協議会が毎年行っている『ベストジーニスト』のHPにリンクされている会社、8社(注2)の中で主にレディスを扱っている3社である。

  調べた結果、SOMETHINGには“あしながスマートシルエット”の『Sophia』、あしながヴィーナスジーンズの『VIENUS JEAN』、帝人のWOWの新シリーズには“スラリ スッキリ スレンディ”の『SLENDIA』、Sweet Camelには『あしながジーンズ』というシリーズがあった。このことから、現代の女性が脚長を望んでいるということが推察でき、目が大きく脚の長い人物が理想像だと言える。

表6

作品名

測った登場人物

全身

足の長さ

PARA☆ダイス

犀川(さいかわ)ライ

5.4cm

3.0cm

MAXラブリー!

時枝愛里(ときえだあいり) 

9.5cm

5.6cm

満月をさがして

神山満月(こうやまみづき) 

5.9cm

3.5cm



3 共感による刷り込み

  読者は漫画と現実は違うと知って漫画を読んでいる。幼い頃は現実とフィクションが混ざっていただろうが、小学校高学年ともなれば漫画と現実は違うと分かってくる。ではなぜ漫画を読むことによって刷り込みが起こるのだろうか。私たちはその理由を考えた。そして読者が漫画を読み、登場人物に対して起きる“共感”からそのようなすりこみが起こるのではないかという考えに辿り着いた。漫画を読み、共感するということは登場人物と自分を重ね合わせて考えているということだ。それは漫画というフィクションが自分の経験というノンフィクションに重なるということである。このことにより漫画の中で自分が共感した部分以外のところもノンフィクションに近づき、刷り込みが起こるのではないだろうか。

 ここで一つ例を挙げてみようと思う。『クッキー』11月号から連載が始まった藤末さくらの「あのコと一緒」という作品である。この作品を例に挙げたのはこの作品のキャッチコピーが“共感系”であったことと、登場人物の男女の関係が分かりやすく2パターンになっていたからである。

  この作品の主人公・坂下かのりと親友の坂上香澄は合コンに参加し、二人とも彼氏ができる。かのりの彼氏・中尾浩太と香澄の彼氏・江奈は対称的な二人である。浩太はかのりとセックスをしたい気持ちはあるがかのりを大切にしたいのでセックスをがまんしている。しかし、江奈の方は香澄とセックスしたいと思い、そして我慢できないように描かれている。私たちは浩太のように女性のことを考えてくれるような人が理想で、江奈のように女性の気持ちをあまり大切にせず、セックスがしたいという気持ちを持つ人が現実だ、と感じた。

  しかし、『男の子のからだとこころ』村瀬幸浩(成美堂出版)という本には、「確かに男の子はトイレへ行くときにも性器に触れるので女の子よりも性に関心が向きやすい。そのことは分かってあげるべきだが、男の子は性的欲求をコントロールできる」と書かれていたので、男の子はセックスをしたい、という考えが当たり前ではないということに気づかされた。つまり、私たちが理想的な浩太に共感したことによって理想的ではない江奈を現実だと思ってしまったということなのである。これが漫画による刷り込みなのだ。

 また表7のように少女漫画の作者はほとんどが女性である。そのため、少女漫画は女性というひとつの性から見た恋愛論になってしまっているように感じる。作者が女性なので男性の本当のことを知らず、作者にも「男性はこういうもの」という刷り込みによって作られた知識や思考の部分があるので、読者である私たちにも刷り込みが起こるのである。

表7

雑誌名

女性作家と男性作家の割合

りぼん

はっきりした数は分からないが、女性がほとんど

別冊マーガレット

男性は10人中に1人以下

クッキー

はっきりした数は分からないが、女性がほとんど

デザート

現在(2004年1月13日)は女性のみ

※ 各誌の編集部に問い合わせ調査した。


まとめ

 私たちは知らないうちに現実とは異なる虚像を漫画から刷り込まれていることがわかってきた。このことは、私たちが「常識」だと思っている他の多くの情報や価値観も、実は様々なメディアによって刷り込まれたものであり、実際とは異なっているかもしれないという可能性を示唆するものである。だから、私たちは漫画に限らず様々な情報が何者かによって刷り込まれているものなのかどうかを見極め、単純に人の意見に左右されない力を付けなければならない。

                          
注1 S(エス)
S&Co.(エス・アンド・コー)
エメルジュ
エリクシール
クレ・ド・ポー ボーテ
ザ・メーキャップ
セルフィット
dプログラム
ドラマティカルアイズ
ナチュラルズ
ヌーヴ
ピエヌ
フフ
マジョリカ マジョルカ
※すべてブランド名(メーカー:資生堂)
注2 BETTY SMITH
BIG JOHN
BOBSON
EDWIN
LEVI'S
SOMETHING (SOMETHINGはEDWINのレディスだがEDWINとは別とした)
Sweet Camel
WOW
※LEVI’S、SOMETHING、WOWはブランド名、そのほかはメーカー名
主要参考図書
『男の子のからだとこころ』 村瀬幸浩/成美堂出版
『マンガはなぜ面白いのか』 夏目房之介/NHK出版
『漫画の歴史』 清水勲/岩波書店
『ポップ・カルチャー・クリティー702 少女たちの戦歴 「リボンの騎士」から「少女革命ウテナ」まで』  斎藤環ほか/青弓社
主要参考資料
『りぼん』2003年11月号/集英社
『別冊マーガレット』2003年11月号/集英社
『Cookie』2003年11月号/集英社
『デザート』2003年11月号/講談社
『with』2003年10月号/講談社
資生堂         http://www.shiseido.co.jp/
ベストジーニスト  http://www.best-jeans.com/
SOMETHING    http://www.edwin.co.jp/something/index.html
帝人WOW      http://www.teijin-wow.com/index.shtml
Sweet Camel    http://www.sweetcamel.com/

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