まだ見ぬ子に「絆」求めた

つないだ手は―セックスレス夫婦


 「ごめん」。同じ言葉を何度聞いただろう。2年前の夏。結婚して1年が過ぎていた。眠れなかった。せつなくて涙がにじんだ。

 年下の夫と交際していた時から、2人だけの時間はぎこちなかった。でも、結婚して生活が落ち着けば解決すると信じていた。なのに……。

 ベッドを抜け出し、隣のリビングの床に座り込んだ。カーテン越しに街灯の明かりが漏れていた。部屋に入ってきた夫の気配を感じると、胸の中の思いがこみ上げた。

 「なぜなの。私のこと好きじゃないから」
 「違う」
 「赤ちゃん欲しくないの」
 「欲しい」
 「じゃあ逃げないで頑張ろう。病院に行こうよ」
 言葉が止まらなかった。

    ◆   ◆

 夫が言ったことがある。「会社の目標に自分の仕事が追いつけない」。中国地方にある金融機関の支店に勤め、中小企業向けの融資を担当している。午前8時に家を出て、帰るのは午後11時を回る。休日や深夜でも、携帯に取引先から連絡が入る。長引く不況で、融資の回収に神経を使うようになった。

 「きつい。達成感がない。やってもやっても先が見えない」と漏らしたこともあった。疲れ切った顔を見るのはつらかった。

 2人で泌尿器科を訪ねた。名前を呼ばれて、夫は診察室に入った。夫婦であっても聞いてはいけないことなのかも知れない。一緒に入るのをためらった。

 帰りの車の中。
 「どうだった」
 「薬飲めば大丈夫ってよ」

 投げやりな返事。ブスッとした不機嫌そうな顔だった。

 「原因は何」「仕事のストレスなの」「治るの」。いくつも言葉をのみ込んだ。

 病院でもらう薬が漢方薬から勃起(ぼっき)不全治療薬に変わっても、あまり状態は改善しなかった。

 これ以上落ち込むのは嫌。セックスレスになった。

    ◆   ◆

 今年1月3日。夫の実家から帰宅した深夜、こたつに入って届いた年賀状をながめていた。

 差出人を確認して裏返す。産着の赤ちゃんが目に飛び込んできた。「お父さん似です」「声を立てて笑うようになりました」。何枚もの愛らしい写真と何げない文章が胸に突き刺さった。

 2日前、初もうでに出かけた。「今年で35歳になります。何とかして子どもが授かりますように」

 お願いする自分とはがきが重なる。追い詰められていく気がした。

 掃除も洗濯も食事の準備も嫌になった。外出するのも電話に出ることさえも。突然叫んで怒りだし、夫の胸を両手で何度もたたいた。

 産婦人科で初めて人工授精の検査を受けた。医師から治療の説明を聞いていると、気持ちが和らいだ。

 もうすぐ4回目の人工授精の日がくる。

 2人の溝を、子どもが埋めてくれるかどうかは分からない。でも、彼との子どもが欲しい。

 強い絆(きずな)を取り戻したい。

(07/10)