「枠」越えて、新しいきずな

つないだ手は――オランダの女性たち:3


 1歳になったばかりのエルケは、庭で砂遊びに夢中だった。アンヌマリー(39)が寄り添い、ジョコ(37)は台所から笑いかける。アムステルダムから電車で30分、大学の街ユトレヒト。静かな午後。2人は息子の「お母さん」で、昨年11月、市役所に結婚届を出した同性愛カップルだ。

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 小学校の教師を目指すアンヌマリーが、居心地のいい「性」に気づいたのは32歳の時だ。ほどなくして、友人の誕生パーティーで公務員のジョコと知り合った。

 自分の中にある母性も意識していた。「子どもが好きだし、ずっと産みたかった」

 父は仕事人間だった。幼いころ感じた「父性の喪失感」は、いまも消えない。自分のつくる家庭には、父親役が必要だった。

 「父親探し」は慎重に進めた。同性愛者向けの新聞に広告を出しても、からかいの反応しかこない。精子バンクにも登録したが、子どもが望んでも、将来父親と会えない場合があると知ってやめた。

 週末のキャンプ先で探し当てたのはゲイカップルの男性(31)。翌日、2人の計画を長い手紙に託した。妊娠への協力、生まれた子への教育方針、定期的に子に会ってほしいこと……。半年かけて「イエス」を導き出した。

 「妊娠を確信したとき、天から神聖なものが降りて来たようだった」

 息子の洗礼式には、母2人、父2人、そして祖父母が顔をそろえた。大勢の身内に囲まれて息子は育っている。

 自分がどうやって生まれてきたかは、包み隠さず説明するつもりだ。「偏見は心配しない。母親に聞きにくいことは、父親に相談すればいいのだし」

 家族のきずなの結び方は、変容していく。前例を乗り越えた女性がここにもいる。

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 フランス(87)は両方の薬指に結婚指輪をしている。左のプラチナは、10年前亡くした夫とのもの。右のゴールドはウィリー(85)から贈られた。

 アムステルダム郊外の老人ホームで知り合って3年、昨年の1月に教会で結婚式をあげ、ホームの中で披露パーティーをした。

 「僕のような老人がそんな気持ちになるとは想像もしていなかった」とウィリー。フランスは「親しくなるきっかけは、私が誘った旅行だったの」といい、うなずく。

 まっすぐな情熱に戸惑うのは、周囲の方だった。急ぐ2人に、牧師は「じっくり相手を観察して」と2度の旅行に送り出した。子どもたちも乗り気とはいえない。ホームに恋人同士はいても、式をあげた例はなかった。列席を拒む娘には、理解を求める手紙を送り、意志を貫いた。

 脳出血の後遺症で足が不自由になっている。ウィリーは一日中車いすを押して、付き添ってくれる。寝るときも、もちろん一緒だ。「彼がいなければ、私はあちら行きだったわね」と、窓の外の病院棟を指さした。

 亡くした夫の思い出と、いまの毎日は矛盾しない。「いつまでも女性でいることは、すばらしいことだから」

 (敬称略)

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