離婚:上 妻から

つないだ手は――夫婦になって

 何で飲めないんだろう。

 職場の昼休み。インスタントコーヒーを一口ふくんだ私(39)は、薬臭さを感じてカップを置いた。味覚が変わった。生理も遅れていた。

 2年前の年の瀬。思いがけない妊娠に「自分が女であることを恨みました」。

 午後6時過ぎ、いつものように夫(48)からの電話が入る。「今から電車に乗るから」。自宅に近い福岡市内の駅まで車で迎えに行く。

 助手席に座った夫に、妊娠を打ち明けた。

 「おれの子か」

 「あなたの子じゃなかったらだれの子よ」

 疑われても、今更怒りもない。さらりと言い返し3人の子どもの待つ家に向かった。

    *

 夫は八つ年上で、中学時代の家庭教師だった。20歳で結婚。そのころの夫は頼もしく、ずっと大人にみえた。

 まもなく長女が誕生。産休が明けて旅行会社に職場復帰した時だ。パック旅行のキャンセル手続きを忘れ、会社に損害を与えた。

 育児と仕事の両立への自信がうせる。夜遅い夫に家事の協力は望めない。会社を辞めて、家庭に入った。

 夫は40歳を過ぎたころ、不動産関連の会社で管理職になった。人員整理と経費削減の重責で、夫は疲れ切っているように見えた。頼ってばかりもいられない。パートに出た。パソコンも買った。30歳を過ぎ、焦りもあった。

 それからだ。夫の束縛が強くなったのは。

 「飲み会で遅くなるから」

 「だれと」「どこで」「何時に帰るのか」

 外出の度に聞かれる。携帯で様子を探る。

 時々「おい」と呼ばれては、抱かれた。拒めば「男がいるんじゃないか」と勘ぐる。「応じるのは、浮気をしていない証しだった」。避妊もしない。私も夫まかせだった。そして妊娠、中絶をした。

 夫は突然、プロ野球のナイターに誘ったりした。途中であくびが出る。そんな私に気付きもしない。退屈だと言えば怒るのはわかっている。

 連れていくことでたぶん、夫は満足なのだろう。

 「若いころはそれを愛情だと思えた。でも、その自分勝手な愛情に、共感できなくなったんです」

 一昨年の7月。明け方、寝室のパソコンの電源を入れた。うなり出す機械音に、夫が目覚めた。

 「だれとやってるんだ」

 無性に腹が立った。パソコンを使わない夫は、私がキーに触れるだけで機嫌が悪くなる。だから寝ている間にメールを見ようと思ったのに。

 「あなたは私を束縛しすぎるのよ」

 泣き叫び、ため込んできた気持ちを初めてぶつけた。

     *

 年が明けた昨年1月4日。夫の運転で産院に行き、3回目の中絶をした。

 翌日、夫は山登りに出かけた。「逃げた」と思った。離婚を決めたのはこの頃だ。

 10月、私から切り出す。

 「お願いだから、もう解放してください」

 結婚19年目だった。

(04/17)