離婚:下 夫から

つないだ手は――夫婦になって

 妻(39)に離婚を切り出された昨年10月、ナイターの話が出て、びっくりした。

 二人の時間を楽しもうと、会社帰りにチケット屋に寄って買ったプロ野球の観戦チケット。それが、僕(48)の身勝手さを表すものとして別れ話で持ち出されようとは。

 「一緒に行こうって、前もって言ってほしかった」「退屈であくびをしている私が、わからなかったでしょ」

 確かにあくびには気付かなかった。妻だから、誘えば当然ついてくるだろうと思っていた。

 「あなたは私を束縛しすぎるのよ。お願いだから、もう解放してください」

 訴えるような妻の言葉に、もう何も言えなかった。

 離婚に合意した。

      *

 2年前の秋。南こうせつのコンサートの日程を、妻にパソコンで調べてもらった時だ。男性からのメールに気付いた。

 「海に行きませんか」

 親しげな文面が、目に焼き付いた。職場の同僚の気軽な誘いだったのかもしれない。だが、出会い系サイトの話題が頭をよぎった。以来、仕事中も妻のことが気になった。

 「メールをやめてくれないか」。男性に電話をした。妻の携帯の着信番号を盗み見て、会社からかけた。

 「そういうつもりじゃありません」。相手はきっぱりと交際を否定した。問いただす自分の声は、震えていた。

 妻と出会ったのは大学生のころ。家庭教師と生徒の間だった。中学生の妻は勝ち気でかわいかった。だれとでも仲良くなれる、自分にはないその明るさに引かれた。

 だが、30歳を過ぎてパートに出て、妻の目が外に向き始めると、心配になった。

 つなぎとめたい。その一心だった。

 男の影を疑い、2年前の暮れに妊娠を知った時も「おれの子か」と聞かずにはいられなかった。「結局、自分に自信がなかったんです」

 妻が中絶をした翌日の1月5日、リュックに荷物を詰め、大分県の久住山に一人で出かけた。妻から逃げたんじゃない。むしろ、気遣ったつもりだった。

 「精神的に疲れていたので一人にしてあげたかったし、自分も反省したかった」

 「おれの子か」と問い返したこと。3度目になった中絶の痛み。悪いと思った。それをどう伝えたらいいのか。

 山から下りて、車の運転席から携帯でメールを送った。

 「一緒にいてくれる?」

 「いますいます、アハハ」

 いつもの調子の妻のメールに安心し、「ごめん」という一言を、言いそびれた。

      *

 離婚して半年になる。

 ようやく落ち着き、好きな本を読む気になった。

 仕事帰りに本屋に立ち寄る。推理小説を探しながら「夫婦」「愛」と書かれた背表紙に手が伸びる。

 「口べただからは、言い訳に過ぎないのよ」

 別れ際に言われた妻の言葉のあれこれを、文章のなかに探す。どうすればよかったのか。答えを探して。

(04/18)