男の悩み、父には言えない

 机の下にもぐり込む。兄が隠している雑誌をこっそり取り出した。美容外科の広告に、目が留まった。

 イラストで描かれた性器に×印が付いていた。「包茎って汚い」。嫌がる女の子の言葉で、手術を勧めていた。

 「やばいなあ」

 ズボンを脱いで確かめる。自分のことを言われているようで、不安になった。翌月は修学旅行。大浴場に入るだろう。みんなにばかにされるかも……。中学3年5月のことだった。

 旅行まで3週間に迫った日曜日。横浜市内の美容外科を訪ねた。若い男性の医者は触診もせずに言った。

 「まだ若いね。君がしたいなら手術をしてもいいよ」

 思い詰め、その夜、母に切り出した。

 「手術を受けないとだめらしい」「そうなの?」

 母は戸惑っているようだった。保険が使える近くの泌尿器科で再診することにした。

 仕事に追われ、夜9時を過ぎないと帰らない父には、何も相談しなかった。

 「同じ男として、父に言うのは恥ずかしかったし」

 母に付き添われ、泌尿器科で手術を受けた。

 このころ、よく学校を休んでいた。理由は顔のニキビ。ツルツルの肌にあこがれていた。顔が白くなるまで薬を塗り込んだ。逆に肌荒れし人目が気になって、登校できなくなった。

 「勉強についていけないからか」。口ごもる自分に、父はいら立った。

 「ニキビが気になるから」とは恥ずかしくて言い出せない。親に干渉されるのも嫌だった。ほとんど会話のなかった父に、悩みをどう伝えればいいのか。

 3年前。大学の学生食堂でたまに見かける子が好きになった。黒い髪の素朴な感じ。別の学科の同学年だった。

 「ほかの女の子とは違ってみえます」

 便せんに思いを書いたが、手渡すことはなかった。体のことが気になったから。

 今でも手術を後悔している。医者は「問題ない」というが、期待通りにはならなかった。

 パソコンにキーワードを打ち込む。包茎のサイトが出てきた。手術を考え助言を求める人、手術を後悔する人の多さに驚く。「自分だけじゃなかったんだ」。人からどう思われているのか、気にし過ぎていたのかもしれない。

 雑誌広告に背中押され手術したが…

 あのとき父と話していたら、とたまに考えてみる。

 「一緒に医者に聞いてみようか」。父とそんな会話があったなら、結果は変わっていただろうか。

 9月初め、実家に帰省した。母と並んで台所に立ち、夕食の支度を手伝った。

 「高校受験を控えて、早く悩みを解消してあげようと、手術を急いでしまった」。そう母に言われた。

 「息子をこんなに追い詰めてしまった。医者任せにせず、親子できちんと向き合っていれば……」

 親もまた、悔やむ。

(09/19)