セックス、生殖、家族観は20世紀後半に大きく変わった。極端な例、数少ない例と考えられたことに、やがて驚きがなくなる。その繰り返しだった。
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セックスレス。
この言葉が日本で語られ始めてから10年もたっていない。
関西の地方都市。2歳の娘がすんなり寝入った夜、妻(36)は夫(38)を寝室に誘った。
「今日はやめとこ」
完全なセックスレス夫婦になったのは、子どもが生まれた後だが、夫は、6年前の新婚当時から消極的だった。
「何でいやなの」「病院に行ったら」。夫への言葉は次第にきつくなった。毎朝、見せつけるように基礎体温を測った。排卵日を予測して、夫に頼むようにしてできたのが娘だ。
もう1人、ほしい。夫に協力させるため、いっそ不妊治療に入ろうかとすら思った。
夫婦仲はいい。夫が浮気をしている風もない。共働きで職場が近い夫の方が家事分担が多い。パートナーとしてこれ以上の人はいないだろうと思う。
「もしかしたら、私たちと同じような夫婦は、少なくないのかもしれない」
妻はあきらめ始めている。
セックスレスを訴え、医師を訪ねる人は年々増えている。専門家は「セックスしたくてもできない」群と、「しなくてもいい」群に分類する。後者は治療の対象にならず、どれだけいるかつかむこともできない。
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子づくりの常識からかけ離れた例が、欧州で進行している。
オランダ・ライデン市。
「精子さえあれば」。レズビアンの大学職員イングリッドさん(34)と、カウンセラーのマヨレーヌさん(42)は考えた。
一緒に暮らし始めて3年たったころだった。大学時代の2人の共通の男友だちが、精子の提供を申し出てくれた。
「排卵日だ」と思ったら男性に電話し、自宅に来てもらう。コップの精子を、針のない注射器でマヨレーヌさんの体内に入れた。医師の手も借りない。
数回、続けるうちにマヨレーヌさんは妊娠し、4年前に女の子を産んだ。イングリッドさんも同じ方法で7カ月前、男の子を出産したばかりだ。
不妊治療のために考案された人工授精というかつての先端医療は、ここでは医療ですらない。「決して難しいことではありません」とイングリッドさんは、こともなげに言った。
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「女性の急速な職場進出に加え、こうした性の多様化が、初産の年齢を押し上げている」とオランダ学際人口研究所のギース・ベーツ研究員は言う。 オランダは初産の平均年齢が29.1歳と世界一高い。30年間で4歳も上昇した。
「10代からピルを飲み、妊娠はピルをやめることと同じ意味。それで妊娠しないとすぐに生殖医療に駆け込む。出産時期は完全にコントロールできると思うから、先に先に延ばす」
日本の初産年齢は平均27.9歳。その上昇カーブが最もきつい国の一つだ。出産の高齢化は少子化と直結する。
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